慈愛の宝石

樹はメインステージから300M程離れた、小高い丘の上に立っていた。
足元を見ると小さな草の芽が生えている。後45回位、惑星が昇り
沈んだ頃には、雑草が生い茂っているだろう。

あの風。何かにしがみついていなければ、軽く空に舞い上げられる。
当然命は消えるだろう。暴風に意志はない。
顔に当たる雨粒はプラスチックの弾丸のようだった。
だが誰も死ななかった。
戦争じゃない。

みんなが造り上げた全てを破壊し尽くし、そのまま挨拶も無しに去って行った。

だが、樹はその後よく考えてみた。


これは、チャンスなのではないだろうか?
もう一度始めからやり直せる。


みんな体力は残っている。

だが一番の問題は気力を取り戻せるか・・・
最重要課題だった。

樹はスタッフを集めてあの女性から聞いた話をした。
どう感じられるかは樹に解らない。
ただ伝えなければならないという強い意志が湧きたつのを
押える事が出来なかった。

みんなは、何も言わずに聞いてくれた。
女性から教わった現実と比べたら、僕らが受けた試練
なんか大した事じゃない。

人が人間を溶かした訳じゃない。
人類は原子の力を見つけるべきでは無かった。
だが今そう言うのは、言い訳にしか過ぎない。
逃避してはいけない。
直視すべきはリアルで冷酷な現実だ。

宇宙の力は富に繋がる。
この世では常に何処かで争いが無ければ、奴らは満足しない。
争いには武器が必要なのだ。
それが何に使われようが奴らには関係ない。
後は知らない。その方が都合がいい。
ただ買ってくれさえすればいい。
欲望は、自己増殖する。それは止めようがないだろう。

駄目だ。樹がみんなに言ったのは、ただひとつ。

  
 真正面から行こう。 

同じリングを造らない。僕らは四角い網は張らない。

構築するものは、美しき轟音の鳴らせるステージだ。

どうせ元のここには何も無かった。

何度でもいい。やられたらまたやり直せばいい。

樹は真摯に話をする。スタッフのみんなは何も言わず聞いていた。

そして仲間は立ち上がってくれたのだ。
何も無い荒れ地がここまで変わった。


あれからどれ位の時間がたったのか。今この丘からは3つの
ステージが見える。メインステージはより大きくなった。
ミノルさんのイラストは相変わらず華やかでサイケデリックだ。

食堂、トイレ、臨時病院。全て完備出来ている。
そう。もうここは異空間ではない。
生も死も病も全て発生する。
交換の概念も発生し始めていた。

あまりいい傾向ではないが、まぁそれがいいか悪いかはいずれ
結果が出るだろう。

樹は集中していた。舞台は出来た。
僕らのスピリットの集積だ。 
隣に、吉野がいる。眺めは壮観のようだ。


「 できたな。俺たちは答えなければならない。あんな荒れ地を
  ここまで育ててくれた、君達に。小さな種だが受け取って欲しい。
  必ず大輪になる。俺は北の寒いところからここまで来た。
  ただ西へという指令の元に・・・だが、これからは違う。
  自分で全てを決める。
  誰の指示も受けない。ここでプレイする
 
  今はこの地こそが故郷だ。 」


樹が目覚めようとしている。もういい加減眠った。
顔にうっすらと笑みが浮かんでいる。
紗和の顔が見えてきた。




「 起きた? 気分はどう?」

「 うん。悪くない。どれ位寝てた?」

「 多分3日位。喉がカラカラでしょう。」

「 水をもって来てくれる。」

紗和が赤ちゃんを樹の隣に寝かしてキッチンにいった。
樹が光を見つめている。
コップの水は堪らなく美味しかった。


「 名前つけてあげなきゃね。どうする?」

「 決めたよ。」

「 どんな名前?」

「 碧音 」

「 いい名前ね。アオネちゃん。」

「 碧は奥に白い光を持っているよ。」

「 スターサファイアね。6つの星のように輝く。
  私達の願いのように・・・・」
                   

やっと始まる。永い時と空間の間へ。
                            
                                  慈愛の宝石   

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