扉を開ける

久しぶりの37F。今日は特別夜景が綺麗だ。
空気が澄んでいる。
だがますます灯りが減っている。このままいくと、いずれ暗黒大陸
になるだろう。 間に合うだろうか?

弾が問う。


「 向こうはどうだ?何処まで進んでいる?」
 

「 はい。もう準備は出来てます。多分45日位は
   かかりましたが、メインと2つのステージ、その他の食事、トイレ,
   医療室全て整っています。 後はスケジュールだけです。」

 
「 樹、おまえには特別な能力が備わっている。
  3日間お前は俺のベッドで眠っていた。隣にはいつも紗和がいたはずだ。 
  その間にお前は向こうで働き続けていた。どう思う?」


「 そうですね。こちらでは確かに寝てたはずです。
  でも実際は、あちらで動いていた。3日と45日。時間の流れが違いますね。
   そしてここと向こう側、両方共間違いなく僕です。夢じゃない。
  実際必死で働いた。
  当然僕だけじゃない。スタッフのみなさんがいてこそあそこまで辿り
  付けました。 弾さんがおっしゃるように、僕だけが向こうにいた。」


「 それにどんな意味があるか。俺は気付いた。
  お前はあの空間とこちら
  を自由に行き来き出来る唯一の、ZONE TRIPPERだ。Friction
  の歌そのものじゃないか。誰からのメッセージかはわからないが、
  それは樹、お前がこの荒れ果てたこの世の常識とやらをぶち壊し、
  疲れ切った人々の心と身体を取り戻すための道標になれ
  という事じゃないか?
  この世界とあの空間を繋げるんだ。
  俺はそう思う。」


「 僕らは、ロックに全てを教わった。考え方、本質を掴もうとする意志。
  デザイン。生きる美学を様々なバンドから学びました。しかもそれは
  ホントに面白い旅だった。キリスト教を信じる方々は聖書に救いを求め
  る。仏教なら経典でしょう。僕らのバイブルは、ニール・ヤングとボブ・
  マーリー、村八分、サンハウス そして ローリングストーンズでした。」


「 俺も同じようなもんだ。
  俺の規律はチャンドラーと、阿佐田哲也から
 大きな影響を受けてる。音なら 、IGGY POP、LOU REED, 
  BLUE CHEER, RYNYRD SKYNYRD, そして JOAN JETT だ。
 共通するのは自分の信じた道を真っ直ぐに突き進む、
 彼ら彼女たちはマイナーでもメジャーでも関係ない。
  邪魔するものは何としても排除する。そこが俺の琴線に触れるんだ。」


「 アウトサイダーですね。
この世界は居心地がよくない。
 JOHN LENNONが撃たれた時は、僕も衝撃でした。
 一つだけ言いたいのは彼を勘違いしないで欲しい。
 平和の使者じゃない。神様でもない。
彼は本物のロックンローラーです。
安易に、“IMAGINE”を使うな。映画の“キリングフィールド”の最後の場面
で友との再会に聞こえてきた時は、堪らなく良かった。」


「 樹、一発ぶちかまそうぜ。ここではびこってる偽物の奴らを。
その為にも あちらで成功させてくれ。任せる。」


「 解りました。」


セッションはまだ続いている。
ちょうどマセラッティの暖気が終わった位だ。
冨士夫が扉を開けて出てきた。


「 紗和に歌わせてみる。」

紗和は少し離れてミルクを蒼音に飲ませているので、会話が聞こえていない。

「 やってみましょう。僕は彼女の声に魅せられて付き合うようになった。
  ただかなり前の話なので、どこまで行けるかは本人次第です。
  呼んできます。」


樹は紗和に話をした。


「 紗和、歌えるか? 何か憶えている?」

「 解らない。でも少しずつ何かを思いだしているから、もしかしたら
  フレーズをきけば出来るかも・・・」


「 何をやるかだな。冨士夫さんに聞いてみよう。取りあえずスタジオに
  入ってくれ。」


「 ええ。やってみる。」

冨士夫と花田それにDr-Kが打ち合わせをしている。

「かなり記憶が飛んでいる。何なら紗和を呼び戻せるだろうか?」

「 いきなり、BLACK HEARTS よりは、彼女のルーツに近い
  ものがいいんじゃないでしょうか。」


「 彼女の雰囲気とは似つかないが、おそらくJANIS だ。
  “ コズミックブルース” でいこう。」


「 もう一つないか?16ビートでパンクなナンバー。」

花田がキッパリと言う。

「 Dr-K、遠慮する必要なんてない。Joan Jett をやる。
  “ アイ・ウォナ・ビー・ユア・ドッグ”だ。」


「 よし。やろうぜ。」

Dr-Kが、樹と紗和に言った。

「 紗和さん。歌ってもらえますか。JANISとJETT です。
  曲名は言えません。フレーズで入れる処から行って下さい。
  声が出るまで僕らはイントロを続けます。
  ただ歌いはじめたら、勝負は一回きりです。
  冨士夫さん花田さんには見抜かれます。
  では、御願いします。」


紗和の表情は何も変わらない。ゆっくりとスタジオの扉へ向かって行く。

その扉は錆びていた。だがもしかしたら輝き始めるかも・・・

TATSUYA,JUNKO、みんなが準備している。


 その時が来た。
                       
                        扉を開ける  

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