チャー坊の夢

サイドのYが言う。

「どうやって厳重な警備を抜けるんだ?」

日常殆ど会話の無い5人はあまり言葉を知らない。
答えるのはF、リードだ。

「向こうの守りは堅い。ただ俺たちには電子機器を自在に操るK
がいる。奴に任せるしかない。」


 「OK」

3人からだけ返事が帰って来る。

VoのCの武器は使い古したマイク、リードはGのFire Bird、
ベースのMはFenのJAZZ、サイドも長年のGrecoだ。Kはあらゆる
コンピューターにアクセスできる自作のキーボードを持つ。
もう一人のDはバチ2本、その背中にMarshallを背負う 。


「俺たちのSpiritと装備で負けるはずがない。計画ばかり練るのは
    止めようぜ。」

  
 「OK」

単純に単語を知らないようだ。悪意はない。でも合意はこれで十分だ。
準備は整った。あとは午前4時を待つだけ・・・

冷徹なCは目を閉じている。
何かを考えているようで実は脳内はからっぽなのだ。
緊急の時にだけ恐ろしく早く動く頭脳は明晰複雑、
誰も彼を理解出来ない。

彼はまわりの人間を拒否する。ただ一人を除いては・・・
 
みんなが眠りに落ちかけた時Cが静かに声をあげた。

 「行くぞ」 

 「よっしゃ」

一人大阪人が混じっているらしい。こういう時は助かる。楽観的になれる。
動きだした5人は食堂に入るトラックをハイジャックし運転手と助手を
テトラカインで眠らせた。それに“ロヒプノール”、効き目が早く
血中最高濃度に達する時間が短い。
これで12時間は美しい夢の中で遊んでいられるはず。
羨ましい。

IDカードは予めKが準備したものを使い簡単に検問をすり抜けた。
本当の難関はここからだ。
5か所のセキュリティを破って行かなければならない。
Kはノートパソコン程のキーボードを取り出しもう一度、
動作を確認するため鍵盤を見つめる。
指は美しく細く長い。
絶対音感を持つ彼はAの白鍵を柔らかなタッチで押えた。440Hz。
  
  
  「大丈夫」

食堂の入り口は奪ったカードと鍵で開いた。
5人それぞれが自分の武器を手にする。
Kのようにチェックしている時間はない。後は一発勝負なのだ。
誰も一言も発しない。ここでは言葉は無用、逆に命取りに成りかねない。
照明の無い暗闇の廊下をぬければ第2関門、
Dが時計をみると4時17分だった。
 
 
「まぁまぁやなあ~」

浪速区の出身かもしれない。何も考えていないようだ。

第2チェックは少してこずった。Kのキーボードよりかなり旧式の
OSを使っていたからだ。
KはネットからOSをダウンロードしキーボードを再起動した。
ドアが開く。

薄暗い照明が仄かに灯っている。
迷路のように入り組んだ道を用意していた地図を頼りに進んで行く。
出口の無い入り口を探して彷徨う。


いきなり全館の明かりが点いた。

5時に自動的にスイッチが入るようだ。
まだ警報は鳴っていない。センサーを慎重に避けながら進むため
余計な時間と体力が消耗されていく。
合流してから何も話さないMが先頭に立つ。
やはり女性は強い。
並びは、MCFDK何かの暗号のようだ。


24時間休む事無く働くセンサーと警備員は勤勉だ。
素晴らしい。見習うべきだ。
武器を持った5人は隠れるように進む。
本当は何も恐れることなどないのだが、
目的を果たすためには仕方がない。
  
 
 「まだかよ?」


人を射るような眼光を持つFがしびれを切らして低い声で尋ねる。
誰からも答えはない。

自分で見つけだすしか無いのだ。

目指す処は決まっている。この国で一番狭く閉鎖的な空間。
目的はその空間を広げそこで行われている行為を破壊し尽くす事。
  明確だ。


いきなり警報が発報した!!
5人は全力で走り出した。
まわり道している時間はない。 Cが叫ぶ。
  
 
「ステージは遠くない!最短距離で行くぞ!!」

SPが追いかけて来る。もうKのキーボードは使えない。

残る手段はFのFire Birdで錆びた扉をブチ抜くしかない。
Fは二つの関門に向けて音を発射した。
Marshallから見えない閃光が発射される。

扉が轟音に震え崩れ落ちる。

もうひとつの欺瞞の壁を壊せばその向こうは目指す空間。
何ひとつ決める事の出来ない奴らが立つ汚れたステージ。
  
  
「俺たちはこの議事堂の一番高い処に立ち、ギターをかき鳴らし
   歌い叫ぶ。ただそれだけだ。他に何もない!」


壁は厚く固く壊れる気配さえない。
FのFire Birdを持ってしても通用しないのか?
Mがベースラインを弾き始めた。
4人はそれを祈るように見つめている。
サイドのYがリフを刻み始めると,
強靭な意思を感じさせるFのリードがかぶさる。
一人では到底出せない音が壁を揺さぶる。壁は破れるか?

扉が解け始める。この金属は音に反応している。  
 奇跡の一瞬、この時を長い間待っていた。


SPと警備員がまわりを取り囲む。彼らにはこの音が聞こえない。
早朝のこの議事堂から発せられる


生命のエネルギー溢れる音を全世界の人々に聞かせたい・・・・ 

MCFDK彼らは心のテロリスト。

彼らとは他の誰でもない、僕自身でありあなたそのもの。
  
  逃げてはいけない。  蜂起の時。
                     

                        夜明けの夢 


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