熱い神名月   

午前4時。

桂次は小高い丘の上にボンヤリと座っていた。

気温は、24℃。湿度40%。頬をなでる風が心地良い。
  
   気持ちいいな~

東にいた頃の喧噪、自暴自棄、自ら望んで争いに飛び込んでいく、荒んだ心。

周りの人々の金儲け主義・・・
もう辟易していた。

今はそれが遠い過去のように思える。いや実際過去だ。
 
すんだ事よ。ど~~でもいいじゃないか。

ここから街を見下ろしていると何だか自分が大きく思えてしまう。

最後にこんな気持ちになったのはいつだっただろうか?

本当に忘れていた。

うとうと仕掛けた頃・・・少し後ろに人の気配を感じた。

距離にして50M位だろうか。足音からして3人。

明らかに悪意を発している。

桂次はギターをそっと横においた。

 「 何してんのん?兄ちゃん? ここは危ないでぇ~」

ボウズ頭が薄笑いを浮かべている。あとの二人は無表情。 

“ 上品なヤカラだぜ。ちょっと遊んでやろうか ”

桂次はゆっくりと起き上がりボウズと向かい合った。十分射程圏内だ。
 
「 兄ちゃん僕らとスポーツせぇへん?楽しいでぇ~」 

桂次は目にも止まらぬ速さでボウズの急所をつかみ、握りつぶした。

痛みが強すぎて声にならない。ボウズが転げ回っている。

同時にもう一人の眼に指を差し込んだ。鈍い音がする。

二人を一瞬で倒した後、もう一人は遥か遠く迄逃げ出していた。

 “ムチャクチャ早いなぁ~短距離したらいい選手になるよなぁ。”

素晴らしい逃げ足だ。おそらくかなり健康なのだろう。ちょっと羨ましかった。

その時気付いた。この痛みは間違いない。

折れている。左の一指し指だ。
 
  “あ~またかよ。当分ギターが弾けないなぁ~”

急激に痛みが増してくる。しかたねぇ・・一旦帰還だ。

ギターを肩に掛けトボトボと歩きだした。

 「どないしたん??またやったん?
  もう懲りへんなぁ~お医者さん行こか。」
 

凌が言う。

「 おかぁちゃん、そこまでせんでええよ。ほっとき~」

母はその声を無視し、冨士夫を車に押し込む。

紫のジャガー。やはり美意識は親子だ。似てる。

 「 こら、あかんあわ~グショグショに折れとる。
   くっつく迄に2ヵ月はかかるんちゃうかなぁ。
   でも一番の問題は以前と同じように動くかどうかや。」


のんべぇは、常に冷静。診断は正確。だが肝臓はボロボロだろう。

まるで他人事だ。まぁ実際他人なのだが・・・


Dr-Sは3日間ベッドに入っていない。たまにソファーで仮眠を取るだけだ。

苦闘している。彼にしては非常に珍しい。

4度目の朝を迎える前、青い夢を見た。

瞳に全く光が無くこちらの脳の中を直接のぞいているような冷たい

眼をした男だった。しっかりと立っている。孤高を好むに違いない。
 
 「 それは普通にやっとったら解かれへん。ヒントはRとSや。」 


それだけ言い残すと消えて行った。何処かで会った男だった。

だが思いだせない。まぁいい。それは後で考えればいい事だ。 

今は覚えているRとSに集中しよう。Dr-Kの頭脳演算がフル回転を始めた。

どれ位の時間が過ぎたのだろうか?

キーボードを叩くスピードも最速。あともう少し。Dr-Kにはゴールが見えていた。

恐れていた無限ループでは無かった。

だがここまで難解なアルゴリズムは彼にも初めてだった。

よほどのシークレットだろうか?

普段動じないDr-Kもさすがに興奮している。
    
見えた!!   

nを使って変換を始める。ファイルが解凍され始めた。

ディスプレイを見つめるDr-Kの瞳孔が一点に注がれている。

これが、桂次さんの探していたものか??? 本物か???? 

やはりDr-Sは眠れなかった。



ここは北の地下3階のスタジオ。二人の男が準備している。

外部に音は一切漏れない。一人はベースとマイク。弦はかなり硬質。音も強靭。

もう一人の全身には、Tatooが刻まれている。

スネアとバスドラ、シンバルも数えきれない。

二人は一言も発せず黙々と作業に勤しんでいる。 そこは誰よりも勤勉だ
 
 「 始めるか? Zone Tripper。」 

ベースが弾き始める。イントロのタイミングでドラムが入る。ダメだ。

もう一度。同じメロディー。今度はうまく入った。失敗は1度しか許され無い。

それが二人の唯一のルールだ。あとは自由。

好きにやってくれ!!  

ベースの携帯が鳴っている。だがこの轟音の中で気付くはずもない。

着信名は、Dr-S。何を伝えようとしているのか? 

レインは知るよしも無い。プレイに酔いしれている。 
  
 ” まぁそんなに急ぐ事ぁねぇや。” 

Dr-Sは携帯をおいた。その瞬間夢の中へ。

桂次からデータを貰ってから7日がたっていた。

今日は睡眠薬は必要ない。Dr-Kが目覚めた時は久しぶりに爽やかだろう。
 
かなり涼しくなってきた。もう秋だ。

だがこれから真夏が始まる。気温の事ではない。始まる時。                              
                          熱い神名月   

  by Yasuki    


http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=77K7xsj1-Jg

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